不動産登記

「共有持分の放棄」とは?基本から登記、税金について解説

そもそも「共有持分」とは?

不動産を複数人で所有する場合、その権利関係は「共有」という形になります。このとき、それぞれの所有者が持っている権利の割合を「共有持分」と呼びます。共有持分は、法律上しっかりと定められた権利であり、不動産の一部を持っているという意味ではありますが、実際に土地や建物を物理的に分けているわけではありません。

例えば、兄弟で親から相続した土地を2人で所有する場合、それぞれがその土地の2分の1の共有持分を持っている、という形になります。登記簿にも「持分2分の1」などの記載がされ、それぞれが所有者として登記されます。

このように、共有者それぞれが法的に不動産の所有者ではありますが、「自分の持分の範囲だけを自由に使う」ことができるわけではありません。実際の利用や処分には、他の共有者の同意が必要になる場面が多くあります。

共有持分を持つことで生じる権利と制限

共有持分を持っていると、以下のような権利制限があります

  • 自分の持分だけを他人に売却することができる(ただしトラブルの原因になることも)
  • 共有物の管理・賃貸には原則として共有者の過半数の同意が必要
  • 共有物を売却するには、全員の同意が必要
  • 維持管理費用(固定資産税など)も共有者で分担する責任がある

つまり、共有持分を持っていることは「財産を所有している」ことには違いないのですが、それが単独で使えない、処分しづらいという特性があります。このため、将来的に問題となるケースも多く、「共有持分を放棄したい」と相談に来られる方も少なくありません。

「共有持分の放棄」とはどういうことか?

「共有持分の放棄」とは、自分が持っている不動産の共有持分を放棄する=手放すことを意味します。その結果、自分はその不動産の権利者ではなくなります。

譲渡と放棄の違い

共有持分を手放す方法には大きく分けて2つあります。

  • 譲渡(売却・贈与)
     → 他人に自分の共有持分を譲り渡す行為。相手が同意すれば成立します。
  • 共有持分の放棄
     → そもそも自分の持分を「いらない」として一方的に権利を手放す行為。相手がいなくてもできます。(ただし、登記申請には相手方の協力が必要です。)

放棄が検討される具体的なケース

司法書士としてご相談を受ける中で、実際に「共有持分の放棄」が検討されるのは、以下のようなケースが多いです:

1. 相続で不要な不動産を取得してしまった場合

親の不動産を兄弟で相続したが、自分は住む予定も使う予定もない。管理や固定資産税の負担だけが発生するため、持分を放棄したいというケースです。

2. 空き家や利用価値の低い土地の持分だけを相続した場合

使い道がなく、将来的にトラブルになるリスクが高い不動産。売ることもできず、管理もしきれないようなケースで、持分放棄を検討する方も多いです。

放棄すると共有不動産はどうなる?

「共有持分を放棄したい」と考えたとき、多くの方が不安に思うのが、「放棄した後の不動産はどうなるのか?」という点です。

放棄した持分の帰属先

共有者の1人が持分を放棄すると、その分が他の共有者全員にそれぞれの持分割合に応じて帰属します。

たとえば、3人で不動産を1/3ずつ共有していたとして、1人が持分を放棄した場合、残る2人が1/2ずつ持分を取得することになります。結果的に、共有関係は維持されつつ、持分の割合が変わるだけです。

司法書士の実務上でも、「放棄=他の共有者に無償で持分を譲る行為」として処理されることが多いです。ただし、実態としては「贈与」に近い扱いになり、贈与税の問題が発生します。(この点は後述します)。

放棄によって共有関係はどう変化するのか?

放棄が行われることで、以下のような変化が生じます:

  • 放棄した人は法的な所有者ではなくなる
  • 固定資産税や修繕費の負担義務から解放される
  • 代わりに他の共有者の持分が増えるため、管理や費用負担が増すことがある

つまり、放棄した本人にとっては「責任を手放す」という意味になりますが、他の共有者にとっては持分が増えることで新たな負担が発生することもあるという点に注意が必要です。

登記手続きについて

不動産の共有持分を放棄する場合、法務局での登記手続が必要になります。登記手続き流れを簡単に説明します。

1.必要書類の作成・収集

登記手続には、以下の書類が必要です。

  • 登記原因証明情報
  • 登記識別情報 又は 登記済証
  • 固定資産評価証明書 又は 固定資産税の納税通知
  • 持分を取得した人の住民票
  • 持分を放棄した人の印鑑証明書

2.登録免許税の計算

登記申請に必要な登録免許税を計算します。

3.登記申請書の作成

登記申請書を作成し、収入印紙(登録免許税分)を貼付します。

4.登記申請

法務局へ登記申請書、必要書類を提出します。

5.登記完了

登記完了後に、法務局から登記識別情報通知(権利証)を受け取ります。

放棄と税金の関係

共有持分の放棄は、一見すると「ただ権利を手放すだけ」のように見えますが、原則として、贈与税の課税対象になるため、注意を必要です。

なぜ放棄で贈与税の課税対象になるのか?

共有持分を放棄すると、その放棄された持分は通常、他の共有者に帰属します。つまり、放棄した人から他の共有者に対して、無償で財産を移転したという解釈ができるため、税務上「贈与」とみなされます

税務署に相談すべき?それとも司法書士?税理士?

税金が関係する場面では、最終的な判断は税務署または税理士の領域になります。

司法書士は登記の専門家であり、税務のアドバイスは法律上の制限がありますが、「贈与税の可能性があるかもしれません」といったリスクの指摘と税理士のご紹介は可能です。

そのため、共有持分の放棄を検討される際には、以下のような体制が望ましいです。

  • 手続きの実行(名義変更) → 司法書士
  • 税務リスクの確認・税務申告 → 税理士税務署