相続は、人生の中で誰しも一度は関わる可能性のある重要な手続きです。
しかし、司法書士として多くのご相談を受ける中で感じるのは、「相続=揉めるもの」という印象を持たれている方が非常に多いということ。
実際、遺産相続をきっかけに兄弟・親族の関係が悪化するケースは少なくありません。
この記事では、司法書士の現場経験をもとに「相続でよく揉める原因ランキング」をご紹介するとともに、事前にできる対策についてもわかりやすく解説します。
相続トラブルが増加している背景
近年、司法書士への相続相談件数は年々増加しています。背景には以下のような要因が考えられます:
- 高齢化の進行により相続発生件数が増加
- 家族構成の変化(単身・再婚・内縁関係など)
- 不動産の資産割合が高いことによる分割の困難さ
- 情報社会による権利意識の高まり
相続問題は決して富裕層だけの問題ではなく、一般家庭でも十分に起こり得るものです。
相続でよく揉める原因ランキング【司法書士が実感】
司法書士として多数の相続案件に関わる中で、実際に揉めやすい原因をランキング形式でご紹介します。
第1位:遺言書がない or 内容が曖昧
遺言がないとトラブルが起きる可能性が高くなる
遺言書がない場合、相続人全員による「遺産分割協議」が必要になります。
これがスムーズにいくとは限らず、ちょっとした感情の違いや誤解が、大きなトラブルに発展することも。
曖昧な遺言書の怖さ
司法書士としてよく見るのが、自筆遺言書に「長男に土地をやる」とだけ書かれているケース。
土地の場所・面積・名義などが不明確だと、結局協議が必要になってしまいます。
司法書士からのアドバイス:
- 公正証書遺言を活用する
- 財産の特定は「登記簿通り」に正確に
- 遺言執行者の指定も忘れずに
第2位:不動産の分け方でもめる
分けづらいのは不動産
現金や預金とは違い、不動産は物理的に「分ける」ことができません。
誰が住むか・売却するか・賃貸にするか…判断が難しい場面が多くあります。
実家を誰が継ぐのか問題
長男が同居していた家を「自分のものだ」と主張し、他の兄弟と対立するのはよくあるパターン。
司法書士が登記の手続きを進められないほど話がこじれることもあります。
司法書士の立場からの対策:
- 事前に家族会議をして意向を確認しておく
- 家族信託で不動産の管理方法を定めておくのも一つの方法
第3位:生前贈与・介護負担による不公平感
「親の面倒を見てきたのに…」問題
介護をしてきた子が「多くもらって当然」と思う一方、他の相続人は「平等に分けるべき」と主張。
感情のぶつかり合いが深刻になりがちです。
生前贈与の扱い
生前に住宅資金を援助してもらった子が「既に得をしている」とされてトラブルになることがあります。
第4位:相続人間の関係悪化(再婚・内縁関係)
複雑な家族構成の時代
再婚相手の連れ子、内縁関係の配偶者、疎遠な兄弟など、相続人間の関係が複雑化しています。
司法書士でも、相続人調査の段階でトラブルになることがあります。
法定相続人の定義を理解しないまま…
内縁関係にある人には法定相続権はありません。知らずに請求してしまい、他の相続人とトラブルになるケースも。
司法書士からのアドバイス:
- 複雑な家族関係ほど「法的整理」が必要
- 家系図と戸籍の確認を司法書士と一緒に行う
第5位:相続手続きが面倒で放置 → 争いに発展
名義変更を何年も放置
司法書士によく相談があるのが、「父が亡くなって10年以上経ってるけど、まだ名義変更していません…」というケース。
その間に相続人が死亡・離婚・認知症になるなど、状況が複雑化します。
放置がトラブルを招く
登記が進まないことで不動産が売れず、他の相続人との関係が悪化することもあります。
司法書士の視点での対策:
- 相続発生後は早めに司法書士に相談
- 名義変更には期限がある(相続登記の義務化)
司法書士がすすめる「揉めない相続」のための対策
1. 公正証書遺言の作成
法律的に有効かつ安全性が高いため、司法書士としても最もおすすめの方法です。
2. 家族信託の活用
不動産の管理・処分について事前に契約で定めておくことで、トラブルを回避できます。
3. 定期的な家族会議と情報の共有
感情的なトラブルは、情報不足・不信感から生まれます。
4. 相続人調査と財産目録の作成
司法書士が法定相続人や財産を正確に把握し、可視化することで、トラブル防止につながります。
司法書士に相談するタイミングとは?
「まだ相続が発生していないから関係ない」と思っていませんか?
むしろ、司法書士に早めに相談することで予防的な対策が取れます。
以下のようなタイミングで相談をおすすめします:
- 遺言書を作成したい
- 不動産の名義変更を考えている
- 家族で相続の話をしたいが、誰に相談していいかわからない
- 亡くなった家族の財産をどうすべきか悩んでいる
【まとめ】相続トラブルは「予防」が最も重要
司法書士は、相続登記の専門家であると同時に、家族間のトラブルを防ぐための「第三者の調整役」でもあります。
この記事で紹介した「揉める原因ランキング」を知っておくことで、未然にトラブルを防ぐことができます。
相続は、家族の未来にかかわる大切な問題です。
今できることから、司法書士と一緒に始めてみませんか。
<執筆者>
司法書士 齊藤 尚行
事務所:埼玉県さいたま市岩槻区東町二丁目8番2号KUハイツ1階