不動産の売買や相続、建物の新築・解体など、人生の中で不動産登記が必要となる場面は数多くあります。
そのときに関わる専門家としてよく挙げられるのが、「司法書士」と「土地家屋調査士」です。
しかし、一般の方にとっては「この登記って司法書士?それとも土地家屋調査士?」と、どちらに依頼すればいいのか判断しづらいこともあります。
そこでこの記事では、司法書士の立場から、両者の業務内容や違い、そして実際の登記手続きでの役割分担についてわかりやすく解説いたします。
司法書士とは?~名義・権利関係の登記を扱う専門家~
司法書士は、法律に基づいた登記・書類作成を通じて、人や企業の財産権を守る専門家です。
特に不動産に関する「権利の登記」は司法書士の代表的な業務であり、主に以下のような登記を取り扱います。
不動産登記(権利の登記)に関する業務
- 所有権移転登記(売買・相続・贈与など)
- 所有権保存登記(新築建物など)
- 抵当権設定・抹消登記(住宅ローン関連)
これらの登記は「誰がその不動産を所有しているのか」「金融機関の担保が設定されているか」などを公的に記録する手続きです。
司法書士は登記に必要な書類を作成し、法務局に代理申請を行うことができます。
その他の司法書士業務
- 会社設立や役員変更などの商業登記
- 遺言書の作成支援や相続対策
- 家庭裁判所への相続放棄申述書の作成
- 簡裁代理業務(認定司法書士に限り、140万円以下の民事訴訟の代理可)
司法書士は「法律手続きの窓口」として幅広いサポートを行っており、不動産登記に限らず、相続や会社法務など多岐にわたる業務に対応しています。
土地家屋調査士とは?~土地・建物の形や状態を登記する専門家~
土地家屋調査士は、不動産の「物理的な情報」を登記簿に反映させるための専門家です。
法務局に提出するための測量や現地調査を行い、不動産の形状・面積・位置などを正確に図面や書類にまとめ、登記申請を行います。
土地家屋調査士の主な業務内容
- 建物表題登記(新築後の初回登記)
- 土地の分筆・合筆登記(1筆の土地を複数に分ける、逆にまとめる)
- 地目変更登記(田・畑→宅地など)
- 建物滅失登記(建物の取り壊し)
- 境界確定測量・隣接地との立会い
これらは「その不動産がどんな状態か」を法務局に登記する手続きです。
たとえば、新築の建物が完成した場合は、まず土地家屋調査士が建物表題登記を行い、その後、司法書士が所有権保存登記を行う、という流れが一般的です。
司法書士と土地家屋調査士の違いを簡単に整理すると?
司法書士と土地家屋調査士は、どちらも登記に関わる国家資格ですが、業務内容や登記の目的が異なります。
| 比較項目 | 司法書士 | 土地家屋調査士 |
|---|---|---|
| 担当する登記 | 所有権移転、抵当権設定など「権利に関する登記」 | 表題登記、分筆、地目変更など「物理的状態に関する登記」 |
| 主な作業 | 書類作成、本人確認、法的判断、登記申請代理 | 現地調査、測量、図面作成、隣地立会い |
| 関わる場面 | 売買・相続・贈与・会社設立など | 建物新築、土地の境界確定、農地転用など |
| 代理申請 | 法務局へ登記申請可能(権利関係) | 法務局へ登記申請可能(表示関係) |
まとめると:
- 「この不動産の名義は誰?」→ 司法書士の仕事
- 「この土地はどこからどこまで?」「建物の面積は?」→ 土地家屋調査士の仕事
登記の性質によって、依頼先が明確に分かれているのです。
具体的なケースでの使い分け
登記手続きの現場では、どちらの士業に相談すればよいのか迷うことがあります。
以下、実際によくあるケースでの対応を紹介します。
ケース①:住宅を購入したとき
- 所有権移転登記 → 司法書士
- 抵当権設定登記(住宅ローン) → 司法書士
このような不動産売買に関する名義変更は、すべて司法書士の業務です。
ケース②:建物を新築したとき
- 建物表題登記 → 土地家屋調査士
- 所有権保存登記 → 司法書士
新築した建物には、まず土地家屋調査士が表題登記を行い、その後に司法書士が所有権を登記するという流れになります。
ケース③:農地を宅地に変えたとき
- 地目変更登記 → 土地家屋調査士
- その後の名義変更があれば → 司法書士
地目(田・畑・宅地など)の変更は土地家屋調査士の業務ですが、変更後に所有権移転等が必要な場合は司法書士も関与します。
ケース④:空き家を解体したとき
- 建物滅失登記 → 土地家屋調査士
- 解体後の土地の売却手続き → 司法書士
解体に伴う登記は土地家屋調査士、名義の変更など権利に関わる手続きは司法書士が対応します。
登記で困ったら、まず司法書士に相談を
不動産に関する登記手続きは、多くの人にとって人生でそう何度も経験するものではありません。
だからこそ、何をすればいいのか、誰に相談すればいいのかが分かりにくく、時間も手間もかかってしまいます。
司法書士は、不動産の権利関係に関する登記手続きをトータルでサポートできる専門家です。
また、必要に応じて信頼できる土地家屋調査士と連携し、現地調査や測量が必要な場面でもスムーズにご案内可能です。
まとめ
司法書士と土地家屋調査士の違いは、簡単にまとめると次のようになります。
- 司法書士:名義・権利の登記を扱う。法的な手続き・書類作成のプロ。
- 土地家屋調査士:土地・建物の物理的状況を登記する。測量・図面作成のプロ。
登記の種類によって依頼先が異なるため、「誰に頼めばいいか分からない」という場合は、まず司法書士にご相談ください。
当事務所では、お客様のご事情に合わせて最適な登記手続きをご提案し、土地家屋調査士とも連携してスムーズな解決をお手伝いしています。
<執筆者>
司法書士 齊藤 尚行
事務所:埼玉県さいたま市岩槻区東町二丁目8番2号KUハイツ1階