相続

内縁の妻・夫に財産を遺すには?相続との違いと対策について

内縁関係とは?法律婚との違い

私たちが「結婚」と聞いてまず思い浮かべるのは、婚姻届を提出して法律上の夫婦になる「法律婚」です。しかし、実際には役所に届け出をしていないものの、夫婦同然の生活を送っているカップルも多く存在します。このような関係を「内縁関係」(または「事実婚」)と呼びます。

内縁関係と法律婚の違いは、主に法律上の効力です。法律婚では婚姻届を提出し、戸籍に「夫」「妻」と記載されますが、内縁関係にはそのような形式はありません。そのため、役所などの公的な手続きでは「配偶者」としての扱いを受けにくい場合があります。

内縁の配偶者に相続権はあるのか?

内縁関係にあるパートナーと、長年連れ添ってきたとしても、法的には「配偶者」として扱われない場面があります。特に重要なのが「相続」に関する問題です。

結論から言うと、内縁の配偶者には民法上の相続権はありません。これは、婚姻届を提出していないために、戸籍上の夫・妻とは認められていないからです。

民法では、相続人の順位が明確に定められています。第一順位は子ども、次いで父母(直系尊属)、その次が兄弟姉妹です。配偶者は常に相続人となりますが、それは「法律上の配偶者」に限られます。内縁の配偶者は、残念ながらこの枠には含まれていません。従って、どれだけ長く一緒に暮らし、支え合ってきたとしても、法律婚をしていない限り、自動的には遺産を受け取ることができないのが現状です。

内縁の配偶者が財産を受け取る主な方法

内縁のパートナーが相続できないという事実を知らずに過ごしてしまい、亡くなった後に財産の名義がすべて他の相続人に移ってしまった、という相談を受けることがあります。特に家や預貯金などの名義が被相続人のままだった場合、住み慣れた家を出なければならない、預金が引き出せないといった深刻な問題が生じることもあります。こうしたトラブルを防ぐには、内縁関係であることを前提とした、生前の備えが重要です。それでは、大切な人に自分の財産を残したいと考えたとき、どのような手段があるのでしょうか?ここでは、内縁の配偶者が確実に財産を受け取るために利用できる代表的な方法を3つご紹介します。

1. 遺言書の作成(遺贈)

もっとも基本的で確実性の高い方法が、遺言書によって財産の受取人を指定することです。遺言書があれば、内縁の配偶者に法定相続人でなくても財産を「遺贈」することができます。

たとえば、「自宅を内縁の妻○○に遺贈する」と明記しておけば、遺言に従ってその不動産の名義変更が可能になります。

遺言書には「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」などの形式がありますが、内縁関係の場合は、確実性の高い公正証書遺言がおすすめです。これは公証役場で作成されるため、形式不備によって無効になるリスクが極めて低く、家庭裁判所の検認手続きも不要です。

2. 死因贈与契約

もうひとつの方法が「死因贈与契約」です。これは、本人が亡くなった時点で相手に財産を贈与する契約のことです。遺言と似ていますが、生前に相手と合意しておく契約である点が異なります。

たとえば、内縁の夫が「自分が亡くなったら、このマンションをあなたに贈与する」と契約し、内縁の妻もそれを了承した場合、死後にその内容に従って名義変更が可能になります。

この方法も、契約書を公正証書で作成しておくことが望ましいです。そうすることで、後のトラブルや無効のリスクを避けることができます。

3. 生前贈与

相続の発生を待たずに、生きている間に財産を贈与するという方法もあります。これを「生前贈与」と呼びます。

たとえば、自宅の名義を内縁の配偶者に移しておいたり、現金や預貯金を定期的に贈与したりすることが可能です。ただし、生前贈与には贈与税の課税対象になる点に注意が必要です。

年間110万円までは非課税(暦年課税の基礎控除)ですが、それを超える部分には贈与税がかかるため、税務上のリスクを踏まえて計画的に行うことが大切です。ケースによっては、税理士と相談のうえ、適切な手続きを選ぶことをおすすめします。

内縁の配偶者への遺贈と遺留分の問題

内縁の配偶者に財産を遺したいと考え、遺言書でその意思を明確にしても、すべてが思い通りに進むとは限りません。ここで重要になるのが「遺留分(いりゅうぶん)」という制度です。

遺留分とは、たとえ遺言があっても、一定の法定相続人に最低限確保される財産の取り分のことをいいます。つまり、内縁の配偶者に全財産を遺す内容の遺言を書いたとしても、他に法定相続人がいれば、その人たちが「自分の遺留分が侵害されている」と主張し、トラブルになる可能性があるのです。

遺留分を持つ人は誰か?

遺留分を請求できる法定相続人(=「遺留分権利者」)は、法律で定められた一定の相続人に限られています。具体的には以下の通りです:

  • 配偶者
  • 子(または孫)
  • 父母などの直系尊属

※兄弟姉妹には遺留分がありません。

たとえ、内縁の配偶者に全財産を遺贈するという遺言を残しても、遺留分権利者は、遺留分侵害を主張し、「遺留分侵害額請求」をすることができます。

実際に起こりうるトラブル

現場でよくあるのは、次のようなケースです。

長年内縁関係にあった夫にすべての財産を渡すという遺言があったが、亡くなった後、被相続人の子どもが「自分の取り分が侵害されている」として遺留分侵害額請求を起こした。結果として、内縁の夫が現金で支払う義務を負うことになり、生活が一変してしまった――

このような事態になると、せっかく遺言書を作っていたのに、内縁の配偶者の生活が脅かされる可能性も出てきます。

遺留分対策は「財産の分け方」と「コミュニケーション」

このようなトラブルを防ぐためには、「遺留分を侵害しないように配慮した遺言内容」にすることが基本です。たとえば、内縁の配偶者に自宅など必要最小限の財産を遺しつつ、残りを子どもなどに遺す方法があります。

また、事前に子どもたちとコミュニケーションを取り、内縁の配偶者との関係や自身の思いを伝えておくことも大切です。相続は「感情の問題」が大きく絡むため、話し合いや説明の有無で争いの有無が大きく変わってきます。

さらに、生命保険の活用や家族信託の設計など、遺留分の影響を受けにくい制度を組み合わせることで、より柔軟な財産承継も可能になります。