不動産登記

死因贈与契約は本当に安全?相続トラブルを防ぐための登記と契約実務のポイントを司法書士が解説

死因贈与契約とは?―「贈与」と「相続」のあいだにある契約

「死因贈与契約」とは、贈与者(財産を与える側)が「自分の死後にこの財産をあげます」と約束することで成立する契約です。
つまり、生前に契約を交わしておき、贈与者の死亡をもって初めて効力が生じる、いわば“遺言に似た契約”といえます。

一見すると遺言と同じように思えますが、法的な性質は異なります。
遺言はあくまで「贈与者の一方的な意思表示」によって効力を発生させるのに対し、死因贈与契約は「贈与者と受贈者の双方の合意」によって成立する“契約”です。

項目死因贈与契約遺言
性質契約(双方の合意)一方的な意思表示
効力発生時期贈与者の死亡時遺言者の死亡時
撤回・変更原則できない(双方の合意が必要)遺言者の意思で自由に変更可能
形式契約書(私署・公正証書)遺言書(自筆・公正証書など)

このように、死因贈与契約は「生前に確実に約束を交わしておきたい」という場合に有効な手段となりますが、注意点も多く存在します。


執行者の選任がカギ!契約が実現しないリスクも

死因贈与契約で最も重要なポイントが、「執行者」を定めておくことです。
執行者とは、贈与者の死後に契約内容を実際に実行する責任者のことで、遺言における「遺言執行者」と同じような立場になります。

もし執行者を決めていなかった場合、契約は存在しても、受贈者(贈与を受ける人)がスムーズに登記や財産の受け取りを行えないケースが発生します。特に不動産が関係する場合、相続人全員の協力がなければ登記申請ができず、手続きが止まってしまうこともあります。

執行者を定めないことによる主なリスク:

  • 相続人のうち1人でも反対すると登記が進まない
  • 契約の履行を求めて裁判に発展する可能性
  • 印鑑証明書や登記書類の準備が煩雑になり、受贈者の負担が大きくなる

そのため、死因贈与契約を結ぶ際には、必ず執行者を指定することが実務上の基本です。


契約書の形式は「公正証書」がおすすめ

死因贈与契約を締結する場合、契約書は大きく分けて「私署証書」と「公正証書」の2種類があります。

■ 私署証書(私文書)

贈与者と受贈者が自分たちで作成する書面です。紙とペンさえあれば作成でき、費用もほとんどかかりません。

メリット

  • 手軽で費用がかからない
  • 内容の自由度が高い

デメリット

  • 改ざん・偽造のリスクがある
  • 法的証明力が弱く、裁判で争いになった際に不利になる可能性

■ 公正証書

公証人が関与し、法的に有効な契約として公的に作成する方式です。公証役場で贈与者・受贈者双方が署名・押印します。

メリット

  • 高い証明力があり、第三者にも通用する
  • 後日のトラブルを防止できる
  • 登記手続きもスムーズに進む

デメリット

  • 公証人手数料がかかる(不動産の価格によって変動)
  • 手続きに多少の手間がかかる

特に不動産が関係する場合は、公正証書による契約を強くおすすめします。
私署証書だけだと、相続人が異議を唱えた際に登記が止まってしまうリスクがあるためです。


登記に必要な「登記識別情報(権利証)」を確実に保管

贈与者の死亡後、受贈者が不動産を正式に自分の名義にするためには、所有権移転登記が必要です。
このとき、登記手続きに必須となるのが「登記識別情報(旧・権利証)」です。

死因贈与契約を締結した際は、契約書と併せて登記識別情報を安全な場所に保管し、執行者や受贈者に所在を伝えておくことが大切です。

もし紛失してしまった場合は、以下のいずれかの方法で対応します。

  1. 事前通知制度を利用する
    法務局から登記申請人に確認書が郵送され、本人確認が取れれば登記が進行します。ただし、処理に時間がかかることがあります。
  2. 司法書士による本人確認情報の提供
    司法書士が本人確認情報を作成・添付することで、権利証がなくても登記が可能になります。
    費用はかかりますが、確実で迅速に対応できます。

死因贈与にかかる税金は「贈与税」ではなく「相続税」

「贈与」という言葉があるため、贈与税が課されると思われがちですが、死因贈与は相続税の対象になります。
なぜなら、贈与者の「死亡」によって効力が発生するため、実質的に「遺贈」と同じ性質を持つからです。

税法上の扱いの違い

財産の取得方法課税される税金
生前の贈与贈与税
死亡による財産取得(遺言・遺贈・死因贈与)相続税

つまり、死因贈与で取得した財産は、相続財産の一部として相続税の課税対象になります。

相続税の特例も利用可能

死因贈与で得た財産にも、以下のような相続税の優遇制度が適用されます。

  • 基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)
  • 小規模宅地等の特例(一定の条件で不動産評価額を大幅に減額)
  • 配偶者控除(最大1億6,000万円まで非課税)

税務上の扱いは遺贈と同じであり、申告・納税の期限も相続開始から10か月以内です。


相続人以外に贈与する場合の注意点

死因贈与では、必ずしも法定相続人に限らず、友人や内縁の配偶者など第三者へ財産を譲ることも可能です。
ただし、税務上は「相続税」として課税されるものの、法定相続人よりも税率が高く、控除額も少ないため、負担が重くなりがちです。

たとえば、法定相続人ではない知人に不動産を死因贈与する場合、控除枠が小さいため、同じ金額でも課税額が数倍になることもあります。
このようなケースでは、専門家による税額シミュレーションを行い、事前に対策を講じることが重要です。


まとめ|死因贈与は「契約」だからこそ慎重に

死因贈与契約は、遺言よりも強い効力を持つ一方、手続きや登記の流れを誤るとトラブルの原因になる可能性があります。
確実に実現するためのポイントは以下の4つです。

  1. 執行者を必ず定めること
  2. 契約書は公正証書で作成すること
  3. 登記識別情報(旧権利証)を適切に保管しておくこと
  4. 税務面のシミュレーションを事前に行うこと

死因贈与は、財産を確実に引き継がせたいという想いを実現する有効な手段です。
しかし、形式や登記、税務処理を誤ると「せっかくの契約が無効になる」「相続人と争いになる」といった事態にもなりかねません。

実際の契約や登記を検討する際は、司法書士・税理士などの専門家に相談しながら、確実で安全な手続きを進めることが何より重要です。

<執筆者>
司法書士 齊藤 尚行
事務所:埼玉県さいたま市岩槻区東町二丁目8番2号KUハイツ1階