死因贈与契約とは?
死因贈与契約とは、贈与者が自身の死亡を条件として、特定の財産を他者に贈与することを約束する契約です。
死因贈与契約の特徴と相続との違い
死因贈与は、贈与者の死亡によって効力が生じる点で、遺言と似たような性質を持ちます。しかし、法的には「贈与契約」であるため、遺言とは異なり、契約当事者(贈与者と受贈者)双方の合意により成立します。
主な違いは以下の通りです:
- 死因贈与:生前に契約を締結。贈与者の死亡で効力発生。契約なので当事者の同意が必要。
- 遺言:贈与者が一方的に作成。相続発生後に内容が実行される。
死因贈与は執行者を定めることが重要
死因贈与契約を確実に実行するためには、「執行者」をあらかじめ定めておくことが極めて重要です。執行者とは、贈与者の死後に契約の内容を実現させる責任者であり、相続における「遺言執行者」と似た役割を担います。
執行者がいないとどうなるか?
執行者が定められていない場合、死因贈与契約が存在していても、それだけでスムーズに登記や引き渡しができるとは限りません。とくに不動産の所有権移転登記を行うには、贈与者の相続人全員の協力が必要となります。
執行者がいない場合に起こりうる問題:
- 相続人の1人でも協力を拒否すると登記が進まない
- 受贈者が契約を履行してもらえず、裁判沙汰になる可能性がある
- 実務上の負担(印鑑証明書の取得、手続き代行)が大きくなる
死因贈与契約の形式:私署証書と公正証書の違い
死因贈与契約は、契約である以上、書面で交わすことが原則ですが、その書面の形式には大きく分けて「私署証書(私文書)」と「公正証書」の2つがあります。不動産を含む場合、どちらを選ぶかによって、後の手続きやトラブルリスクに大きな違いが出る可能性があります。
ここでは、それぞれの特徴と違いを解説します。
私署証書とは?
私署証書とは、贈与者と受贈者が自分たちで作成・署名した契約書のことです。紙とペンさえあれば簡単に作成でき、費用もかかりません。
【メリット】
- 作成が手軽で、費用がほとんどかからない
- 内容の自由度が高い
【デメリット】
- 偽造・改ざんのリスクがある
- 裁判などで証明力が弱く、不利に働く可能性がある
公正証書とは?
公正証書は、契約の内容を公証人が確認し、公的な書類として作成するものです。贈与者と受贈者が公証役場で手続きを行います。
【メリット】
- 証明力が非常に高く、第三者にも通用する
- 後日のトラブルを回避しやすい
【デメリット】
- 作成に手数料がかかる(不動産の価値によって異なる)
- 公証人との事前打ち合わせが必要で、やや手間がかかる
実務上のおすすめ:不動産が関わるなら公正証書が無難
不動産の死因贈与を行う場合、私署証書だけでは手続きがスムーズに進まないことが多く、特に相続人との関係に不安がある場合には、後々のトラブルになりかねません。そのため、実務では公正証書による契約を強く推奨します。これにより、登記手続きもスムーズに進み、受贈者に確実に不動産を引き継がせることができます。
登記の際に必須となる書類:「登記識別情報(権利証)」について
贈与者の死亡後、確実に受贈者のものにするためには、贈与者から受贈者への所有権移転登記を行う必要があります。この登記手続きにおいて、「登記識別情報(権利証)」が必要となります。従って、死因贈与契約を結んだ際には、契約書と一緒に「登記識別情報(権利証)」を安全に保管しておくことも重要となります。
登記識別情報(権利証)を紛失した場合の対応
もし紛失してしまった場合には、以下のような対応が求められます:
方法①:事前通知制度の利用(原則)
法務局から登記申請人に書面で通知が送られ、一定期間内に本人確認が取れれば手続きが進みます。ただし、この方法では手続き完了までに時間がかかる場合があります。
方法②:本人確認情報の提供(司法書士による)
司法書士などの専門家が「本人確認情報」を作成・添付することで、登記識別情報がなくても手続き可能になります。ただし、費用が発生し、かつ司法書士による本人確認の面談などが必要です。
死因贈与による課税区分は相続税になる理由
死因贈与は「贈与」という言葉がついているため、「贈与税がかかるのでは?」と誤解されがちですが、実際には相続税の対象になります。ここではその理由と、税務上の取り扱いについてわかりやすく解説します。
死因贈与は法律上「贈与契約」でも、課税上は「相続扱い」
死因贈与は、民法上は「契約」として扱われますが、贈与者の死亡によって効力が発生するという性質上、税法では「相続」とほぼ同じ扱いを受けます。
相続税法の定義によると:
死亡により財産を取得する場合は、たとえ契約に基づく取得であっても、相続税の課税対象となる。
このため、死因贈与によって取得した財産には相続税が課せられることになります。
なぜ贈与税ではなく相続税が適用されるのか?
贈与税は「生前贈与」に対して課される税金です。一方、死因贈与は、贈与者の死亡という「相続開始」と同時に財産の移転が起こるため、実質的に遺贈(遺言による贈与)と同様の性質を持っています。
このような性質のため、国税庁は次のように整理しています:
財産の取得方法 | 課税される税金 |
---|---|
生前の贈与 | 贈与税 |
死亡による取得(遺産・遺言・死因贈与) | 相続税 |
死因贈与と相続税の実務的ポイント
基礎控除や特例の適用も相続税と同様に扱われる
死因贈与による財産取得も、以下のような相続税の特例・制度が利用できます:
- 相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)
- 小規模宅地等の特例(条件を満たす場合、不動産評価額の減額)
- 配偶者控除(配偶者が取得した財産に対する大幅な非課税枠)
申告・納税のタイミングも相続と同様
- 申告期限:相続開始(=贈与者の死亡)から10か月以内
- 納税方法:現金納付が原則。ただし、延納や物納も一定条件で可能
注意点:相続人以外が受け取った場合の課税
死因贈与では、相続人以外の第三者に不動産などを贈与することも可能ですが、その場合でも税務上は「相続税の対象」として課税されます。
たとえば:
- 長年面倒を見てくれた友人
- 内縁の配偶者
このようなケースでは、法定相続人よりも相続税の負担が重くなる(基礎控除が小さい/税率が高い)ため、事前のシミュレーションが必要です。