相続

相続登記を放置しているとどうなる?義務化と申告登記の創設

相続登記の義務化

2024年4月から、「相続登記の義務化」が法律で定められました。これにより、相続によって不動産を取得した人は、原則として相続を知った日から3年以内に登記をしなければならないとされています。
これまでは義務ではなかった相続登記が、なぜ法的に義務づけられるようになったのか。その背景や具体的なルールを詳しく見ていきましょう。

相続登記とは?

相続登記とは、亡くなった人(被相続人)が所有していた不動産の名義を、相続人に変更する手続きです。この手続きを行うことで、法的にその不動産を「誰が所有しているのか」を明確にすることができます。たとえば、親が亡くなった際に実家の土地を子どもが相続する場合、その土地の登記簿にある所有者の名前を「親」から「子」へ変更するのが相続登記です。

なぜ今、義務化されたのか?

相続登記の義務化には、日本全国で増え続けている「所有者不明土地問題」が深く関係しています。長年相続登記がされず、登記簿上の所有者が既に亡くなっているケースが増加したことで、

  • 土地の売買・活用ができない
  • 公共事業や災害復旧が進まない
  • 税金の徴収が困難になる

といった社会的な問題が発生しています。国土交通省の調査によると、所有者が分からない土地は全国の20%以上にのぼるとも言われており、これが義務化の大きな理由となっています。

義務化の対象と期限

義務の対象は誰か?

義務化の対象となるのは、相続や遺言により不動産を取得した相続人全員です。遺産分割がまとまっていない場合も、一定の対応が求められます。

いつから義務が発生する?

原則として、相続が発生したこと(被相続人の死亡)および自身が相続人であることを知った日から3年以内に相続登記を行わなければなりません。

過去の相続も対象?

2024年4月以前に相続が発生していても、その時点で相続登記がされていない場合は、2024年4月1日から3年以内(=2027年3月31日まで)に登記をする必要があります。

相続登記をしないで放置していると?

相続登記は、不動産を相続した際に所有権を自分に移すための大切な手続きです。
これを怠ると、「あとでやればいい」では済まされない、重大なリスクや不利益が生じる可能性があります。

1. 罰則(過料)の対象になる

2024年4月から施行された改正不動産登記法により、相続登記の義務化がスタートしました。これに伴い、登記をしなかった場合は、10万円以下の過料(行政罰)が科される可能性があります。

過料とは?

過料とは、刑罰ではありませんが行政上のペナルティとして支払わなければならない罰金のようなものです。正当な理由がない限り、相続発生と自身が相続人であることを知ってから3年以内に登記をしなければ、対象になります。

2. 不動産を売却・活用できない

登記をしなければ、不動産の名義が被相続人のままになっているため、基本的に売却・賃貸・担保設定(住宅ローンなど)を行うことはできません。

たとえば、相続した土地を売りたいと考えても、名義変更をしていない状態では法的に売却できないため、手続きが止まってしまいます。

3. 相続人が増え、話がまとまらなくなる

登記を先延ばしにすることで、次のような事態が起こる可能性があります。

  • 他の相続人が亡くなり、相続人の子や孫などが法定相続人として追加される
  • 相続人の数が増えて、関係者全員の同意が取りにくくなる
  • 登記に必要な書類(戸籍・印鑑証明など)がさらに複雑になる

これにより、遺産分割協議がまとまらず、結果的に不動産の処分や活用が長期間できなくなる恐れがあります。

4. 税務上の問題が発生する可能性も

登記をしていないからといって、税金が免除されるわけではありません。不動産を相続した場合、たとえ登記していなくても、

  • 固定資産税の納付義務
  • 相続税の申告・納付義務

が発生することがあります。手続きを放置していると、延滞金やペナルティの対象になる場合もあるため注意が必要です。

5. 他の相続人や親族とのトラブルに発展しやすい

不動産の名義が曖昧なまま長期間放置されると、次のようなトラブルが起こりがちです。

  • 「誰が所有しているのか」が明確でないため、勝手な使用や処分で揉める
  • 一部の相続人が費用負担(固定資産税・管理費など)を強いられて不公平感が募る
  • 代替わりによって、関係が希薄な親族間で感情的な対立が生まれる

このように、相続登記を怠ることで家族間の関係悪化長期的な法的トラブルに発展する恐れがあります。

相続登記をしないで放置している人が多い理由

相続登記は、不動産の名義を亡くなった人から相続人へ正式に変更する手続きです。
しかし、現実には多くの人がこの手続きを行わずに放置しているのが実情です。
その理由は、手続きの煩雑さだけではなく、心理的・経済的な要因も複雑に絡み合っています。

1. 登記しなくてもすぐに困ることがない

今すぐ登記しなくても生活に支障がない、というのが最も多い理由です。

使っていない土地や空き家の場合

特に、相続した不動産が遠方にある土地や空き家である場合、以下のような理由から登記が後回しにされがちです。

  • 誰も使っていないため放置しても問題ないと感じる
  • 売却や賃貸の予定がない
  • 固定資産税の通知が今のままでも届いている

こうした状況では、「あえて手間や費用をかけて登記する必要はない」と考える人が少なくありません。

2. 相続人同士で話がまとまっていない

不動産の相続は、複数の相続人が関わる場合が多く、分け方や管理方法について意見が対立することも珍しくありません。

遺産分割協議の難航

登記の前提として「誰が不動産を相続するのか」が確定していなければ、手続きを進めることができません。以下のようなケースでは、手続き自体が止まってしまいます。

  • 相続人の間で遺産分割の合意が取れていない
  • 一部の相続人と連絡が取れない、または音信不通
  • 家族間の関係が悪く、話し合いができない

結果として、「登記をしたくてもできない」状況が生まれます。

3. 手続きが複雑で分かりにくい

相続登記には、さまざまな書類や準備が必要です。以下のような要素が、心理的ハードルとなって手続きを遠ざけています。

  • 戸籍や住民票の収集(被相続人の出生から死亡まで)
  • 遺産分割協議書の作成
  • 登記申請書の作成や提出
  • 登録免許税の支払い

司法書士に依頼することで手続きを簡素化できますが、その費用が負担に感じられる場合もあります。

4. 登録免許税や手数料の負担

相続登記には、不動産の評価額に応じた「登録免許税」がかかります。さらに、専門家に依頼すれば数万円〜十数万円の報酬が発生することも。

これらの費用を理由に、登記を先送りにする人は少なくありません。特に相続財産が現金ではなく不動産だけの場合、出費に抵抗感を持つ傾向が強くなります。

5. そもそも登記の必要性を知らない人も多い

意外と多いのが、「相続登記が必要な手続きであること自体を知らなかった」というケースです。

  • 親が亡くなったあとも登記を意識せずそのままにしている
  • 昔から住んでいる家なので、名義を気にしたことがなかった
  • 登記簿の情報を確認したことがない

特に高齢の相続人や、不動産にあまり関心のない人に多く見られます。

登記の放置は後々大きな問題に発展

登記をしないまま年月が経つと、次第に状況は複雑化します。
次世代への相続、相続人の増加、手続きの煩雑化、税務トラブルなど、「今すぐ困らない」が「将来の大きな負担」になるのです。

だからこそ、登記の義務化により「早めの対応」が強く求められるようになったのです。

相続人申告登記について

2024年4月から相続登記が義務化され、「相続を知った日から3年以内」に登記を行う必要があります。
しかし、相続人の間で話し合いがまとまらない場合や、手続きに時間がかかるケースも少なくありません。
そうした状況に対応するために新たに導入されたのが、「相続人申告登記」という制度です。

この制度は、相続登記がすぐにできない場合でも、義務違反を回避するための救済措置として活用できます。

相続人申告登記とは?

相続人申告登記とは、相続人であることを法務局に申告するだけで義務を果たしたことになる制度です。
これにより、遺産分割がまだ終わっていなくても、相続登記の義務を一時的に回避することができます。

ポイントまとめ

  • 正式な相続登記ではない(名義変更はされない)
  • あくまで「自分が相続人であることを申告する」だけ
  • 登記義務の履行とみなされ、過料(罰則)を免れる
  • 相続登記の準備期間を確保できる

どんなときに利用できるのか?

相続人申告登記は、以下のような事情で「すぐに登記できない場合」に活用されます。

遺産分割協議がまとまっていない

相続人が複数いて、遺産の分け方が決まっていない場合、相続登記の申請はできません。
しかし申告登記なら、相続人の一人からでも登記することが可能です。申告登記をすることで義務の履行となり、時間的な猶予を得ることができます。

相続人同士の連絡が取れない

遠方に住んでいたり、連絡がつかない相続人がいる場合も、名義変更がすぐにはできません。
こうしたケースでも、申告登記によって法的リスクを回避できます。

必要書類の収集に時間がかかっている

相続登記に必要な戸籍や書類の収集には時間と労力がかかります。
申告登記で「とりあえず申告」しておくことで、罰則を避けつつ、じっくり手続きを進めることが可能です。

申告登記の手続き方法

申告登記は、通常の登記よりも手続きが簡単です。必要な書類と流れを確認しましょう。

必要書類

  • 相続人の氏名・住所を記載した申請書
  • 被相続人の死亡を証明する書類(除籍謄本など)
  • 相続人であることが確認できる書類(戸籍謄本など)

手続きの流れ

  1. 必要書類を用意する
  2. 管轄の法務局に申請する(郵送または窓口提出)
  3. 法務局で受付・処理され、「申告登記」として記録される

申告後に、遺産分割協議がまとまり次第、正式な相続登記(所有権移転登記)を行う必要があります

注意点と限界

相続人申告登記はあくまで一時的な措置であり、次の点に注意が必要です。

  • 不動産の名義は変わらない(売却や活用はできない)
  • あくまで「登記義務を果たした」扱いであり、所有権を確定するものではない
  • 将来的には正式な相続登記が必要

つまり、申告登記は「とりあえず罰則を避ける」ための制度であり、登記問題を解決するわけではないという点を理解しておく必要があります。

まとめ|申告登記は登記義務への“猶予措置”

相続登記を怠ると過料のリスクが生じますが、相続人申告登記によって登記ができない事情のある人も安心して対応できる仕組みが整いました。
ただし、あくまで“つなぎ”であり、最終的には正式な相続登記が必要です。早めの対応と専門家への相談を心がけましょう。