相続が発生したあと、「とりあえず落ち着いてから登記をしよう」と後回しにしてしまう方は少なくありません。
しかし、相続登記を放置してしまうと、不動産の売却・活用ができなくなるほか、将来のトラブルや税負担が増えるなど、取り返しのつかない問題につながることがあります。
この記事では、司法書士の視点から「相続登記を早めに行うべき理由」をわかりやすく解説します。
今後の相続対策の参考として、ぜひ最後までお読みください。
そもそも相続登記とは?司法書士が解説する基本の仕組み
相続登記の目的
相続登記とは、亡くなった方(被相続人)から不動産の名義を相続人へ変更する登記手続きのことです。
法務局で行う手続きであり、司法書士が代理して行うことができます。
相続登記を行うことで、登記簿上の所有者が「故人」から「相続人」へ正式に切り替わります。これにより、相続人がその不動産を売却・担保設定・賃貸など自由に扱えるようになるのです。
司法書士の役割
相続登記は、戸籍の収集、法定相続人の確定、遺産分割協議書の作成、登記申請書の作成など、専門知識を要する手続きです。
司法書士は、これら一連の手続きを代理し、正確かつスムーズに登記を完了させる専門家です。
近年はオンライン申請にも対応している司法書士も多く、遠方の相続にも柔軟に対応可能です。
相続登記を早めに行うべき3つの理由
相続登記を先延ばしにしてしまうと、思わぬトラブルや費用負担が生じます。
司法書士の現場でも「もっと早く手続きをしておけばよかった」という声を多く聞きます。
ここでは、特に重要な3つの理由を詳しく見ていきましょう。
理由① 相続人が増えると登記が複雑化する
相続登記を放置したまま時間が経過すると、相続人の一部が亡くなるということが起こります。
その結果、相続人の子や孫が新たに「代襲相続人」となり、登記に関わる人数が増加します。
登記を進めるには全員の同意が必要なため、人数が増えるほど手続きは複雑になり、連絡・書類収集・印鑑証明の取得などに多大な労力がかかります。
司法書士としても、相続関係説明図の作成や戸籍調査に時間がかかるため、費用や期間が増える傾向にあります。
理由② 不動産の売却や活用ができなくなる
登記簿上の名義が「亡くなった方のまま」では、不動産の売却契約や住宅ローンの設定はできません。
たとえ実質的に自分のものでも、法的には名義人が亡くなっているため、売買・担保設定が不可能なのです。
司法書士に相談があるケースでも、「売却契約が決まってから登記しようとしたら時間がかかって間に合わなかった」という事例が多々あります。
不動産の名義変更は、売却や賃貸を検討していなくても早めに完了させておくことが安全策です。
理由③ 相続登記の義務化で罰則の可能性がある
2024年4月から、相続登記の義務化が施行されました。
これにより、相続により不動産を取得した人は、3年以内に相続登記を申請する義務があります。
正当な理由なく怠った場合、10万円以下の過料(罰金)が科される可能性もあります。
司法書士に相談して早めに準備を進めることで、期限内に確実に登記を完了できます。
相続登記を放置した場合のトラブル事例
事例① 相続人間の意見が合わず登記できない
相続登記を長期間放置してしまうと、相続人間で意見が食い違い、遺産分割協議がまとまらないという問題が起こりやすくなります。
「兄弟が増え、配偶者も再婚していて複雑」「誰が相続するのか争いになった」など、解決に時間を要することがあります。
事例② 不動産の管理責任が曖昧になる
名義が故人のままだと、固定資産税の通知や建物の修繕など、誰が責任者なのか不明確になります。
放置された家屋が老朽化して事故が発生した場合、相続人全員が責任を問われる可能性も。
登記名義を明確にすることがトラブル防止につながります。
事例③ 相続人の一人が行方不明になり登記できない
長期間放置すると、相続人の一部が転居・海外移住・死亡などで連絡が取れなくなるケースもあります。
そうなると、家庭裁判所で不在者財産管理人を選任する必要があり、登記完了まで半年以上かかることも。
相続登記を早く行うための準備と流れ
司法書士が行う相続登記の一般的な流れ
相続登記をスムーズに進めるためには、以下のステップで進行します。
- 司法書士への相談・依頼
所有不動産の確認と、相続人の範囲・遺産分割協議の結果を確認します。 - 戸籍の収集・相続人の確定
被相続人の出生から死亡までの戸籍、相続人全員の戸籍謄本を司法書士が代行取得します。 - 遺産分割協議書の作成
相続人全員の合意に基づいて不動産の分け方を明文化します。 - 登記申請書の作成・法務局へ申請
司法書士が代理でオンラインまたは書面で申請します。 - 登記完了後の書類交付
司法書士が登記識別情報(いわゆる権利証)や登記完了証、登記事項証明書を受け取ります。
司法書士がすべてを代行できるため、依頼者は最小限の手間で手続きを完了できます。
準備しておくと良い書類
- 被相続人の戸籍謄本(出生から死亡まで)
- 相続人全員の戸籍謄本
- 不動産の固定資産評価証明書
- 印鑑証明書(相続人全員)
- 遺言書または遺産分割協議書
司法書士に依頼すれば、これらの書類を代行取得してもらえる場合が多いです。
司法書士に相続登記を依頼するメリット
専門知識に基づく確実な登記
司法書士は不動産登記法・民法に精通しており、申請ミスや不備による却下リスクを最小限に抑えます。
また、遺言書や遺産分割協議書に不備があっても、登記実務の観点から修正案を提案できます。
手間と時間を大幅に削減できる
戸籍収集・書類作成・法務局とのやりとりなど、個人で行うと膨大な時間がかかります。
司法書士に依頼すれば、仕事や家庭の都合で動けない方でも安心して登記が進むのがメリットです。
トラブル防止・将来の相続対策にもつながる
登記を早めに行い、名義を明確にしておくことで、次世代への相続もスムーズになります。
司法書士は、家族信託や遺言書作成などの将来対策も相談できる専門家です。
まとめ|相続登記は「早めの相談」が安心と信頼への第一歩
相続登記は、「いつでもできる」と思われがちですが、放置すると相続人増加・手続きの煩雑化・罰則リスクなど多くの問題が発生します。
司法書士に早めに相談し、相続関係や不動産情報を整理しておくことで、安心して次の世代に財産を引き継ぐことができます。
登記は「今やっておく」ことが最大の相続対策です。
相続登記や名義変更でお悩みの方は、ぜひ経験豊富な司法書士にご相談ください。
確実で安心な登記手続きを、専門家が丁寧にサポートいたします。
<執筆者>
司法書士 齊藤 尚行
事務所:埼玉県さいたま市岩槻区東町二丁目8番2号KUハイツ1階