商業登記

資本金はいくらが妥当?法人登記で押さえるべきポイントを司法書士が解説

はじめに

会社を設立する際、「資本金をいくらにすればよいか」という問いは、起業家にとって最も悩ましいテーマの一つです。
法律上は 資本金1円から株式会社を設立できる ため、形式的には制約がありませんが、実務・税務・信用・許認可などの観点から、資本金額が事業のスタートや将来に影響を与えることは確かです。

本記事では、司法書士として日常的に法人登記を扱う立場から、資本金設定で押さえるべき論点と、登記申請時・将来対応を見据えた資本金設計のポイントを解説します。これから法人を設立される方や資本金を見直したい方にとって参考となる内容を目指しています。

資本金の法制度と登記との関係

法律上の最低資本金要件は撤廃された

過去には株式会社設立時に「最低資本金」という制度がありましたが、会社法改正により 最低資本金制度は廃止 されました。現在は1円以上であれば設立可能であり、形式上は資本金に下限はありません。

登録免許税・定款認証手数料との関係

法人設立登記には 登録免許税 がかかります。株式会社では通常、「資本金 × 0.7%(税率)」で算定しますが、この額が 最低15万円 を下回る場合は、15万円が下限となります。たとえば資本金が少額でも、登録免許税15万円を支払う必要があるため、小資本金にしすぎるとコスト効率が落ちます。
また、 定款認証手数料(公証役場で定款を認証してもらう費用)も、資本金額に応じた区分制を採っています。100万円未満なら手数料3万円(1万5千円の場合もあります。)、100~300万円未満は4万円、300万円以上は5万円

これら費用を総合的に見て、資本金を設定するときのバランスを取ることが重要です。


資本金を決める際の実務的視点

資本金を決める際には、法制度だけでなく以下のような実務・信用・戦略の観点を勘案すべきです。

初期運転資金との整合性を考慮する

会社設立時には、事務所家賃、備品購入、宣伝費、通信費、人件費など、多くの初期費用と、事業開始~収益化までの運転資金が必要です。
一般に、 設立後3〜6ヵ月分の経費を資本金として確保すること を目安にする設立支援実務者も多く、司法書士もこの見込みを考慮して資本金設計を助言します。

過度に小さい資本金を設定すると、運転資金が不足して会社運営に支障をきたすリスクがあります。

許認可や業界規制を踏まえる

特定の事業を行うには、許可・登録・認可要件としてある程度の資産・資本金が要求される場合があります。建設業、宅建業、介護事業、医療法人、飲食業などがその代表例です。
こうした業種で法人設立を行う際には、 許認可の最低資本金要件を満たすよう設定する 必要があります。

司法書士は、相談を受けた段階で許認可要件を確認し、それをクリアできる資本金を設計するサポートが可能です。

対外的信用力と印象の観点

資本金は登記事項証明書に記載され、誰でも閲覧可能です。取引先・顧客・金融機関はこの資本金額を信用判断材料の一つとして見ることがあります。資本金があまりにも小さい会社は、「資金力が不十分ではないか」と疑問を持たれる可能性があります。

実務上は 100万円〜800万円程度 を資本金のレンジとする起業が多く、取引先との関係性や業界慣行に応じて300万円前後を目安とする意見も見られます。

ただし、過度に大きな資本金を設定すると、余計な固定負担(税務・均等割等)が発生するため、バランスが重要です。

将来増資・スケール展開を見据えた余裕設計

設立後すぐに事業拡大や資金調達(増資)を予定している企業では、最初から少し余裕を持った資本金を設定しておくことが得策です。初期から低資本金で始め、後で増資する方法もありますが、増資手続きにはまた登記コストや手間がかかります。


ケース別資本金目安(司法書士視点)

以下は、実務でよく見られる資本金設定の目安と、それぞれの利点・注意点を司法書士視点で述べます。

小規模スタート事業型

初期投資を抑えて始めたい個人起業型には、資本金50万~200万円程度という設定が多く見られます。ただし、運転資金を見込まずに設定しすぎると、早期資金繰りに行き詰まるリスクがあります。

許可業・建設・不動産業型

建設業、宅建業、不動産業などは、許可取得要件としての資本金条件がある場合もあります。例えば、建設業許可で500万円以上という要件を課している自治体もあります。こうした業種では、許可要件をクリアする水準を資本金として設定すべきです。

司法書士は許認可要件も併せて確認し、設立時点で要件を満たす資本金設計を行います。

成長志向・資金調達前提型

ベンチャーや成長型ビジネスでは、資本金をある程度大きめにして信用力を示すケースがあります。ただし過剰すぎる設定は余剰資金の預託になりかねず、コストにもつながるため、事業計画に即したバランス設計が必要です。

低コスト重視・合同会社併用型

コストを抑えた法人設立を重視する場合、資本金を最小限にして合同会社(LLC型)で始めつつ、後で株式会社へ移行する戦略を採ることもあります。合同会社では認証手続きが不要なため、初期コストが抑えられる利点があります。

司法書士は、このようなハイブリッド戦略も含めて最適な設立スキームを提案できます。

<執筆者>
司法書士 齊藤 尚行
事務所:埼玉県さいたま市岩槻区東町二丁目8番2号KUハイツ1階