相続が発生した際、「借金がありそうだから相続放棄をすれば安心」「相続放棄をすれば、その相続とは完全に無関係になる」と考える方は非常に多くいらっしゃいます。
インターネット上でも、相続放棄については簡潔に説明されていることが多く、相続放棄=すべて解決というイメージが先行しがちです。
しかし、司法書士として相続の実務に携わっていると、
「相続放棄をしたのに、まだ相続の問題が終わらない」
という相談を受けることは決して珍しくありません。
この記事では、相続放棄=何も関係なくなる、という誤解について、相続の基本から実務上の注意点まで、相続を専門とする司法書士の視点で詳しく解説します。
相続放棄とはどのような相続手続きか
相続放棄とは、家庭裁判所に申述を行うことにより、
相続人としての地位を最初から失う制度です。
相続放棄の法的な位置づけ
相続放棄が受理されると、その人は法律上、
- 最初から相続人でなかった
- 相続財産を一切承継しない
という扱いになります。
つまり、相続放棄をすれば、
- 預貯金などのプラスの相続財産
- 借金や保証債務などのマイナスの相続財産
これらすべてを引き継がない、という点では非常に有効な相続手続きです。
なぜ「相続放棄=無関係」という誤解が生まれるのか
相続放棄について説明すると、多くの方が
「それなら相続放棄をすれば、もう相続とは一切関係なくなるのですね」
とおっしゃいます。
相続放棄は万能ではない
確かに、相続人としての責任はなくなります。
しかし、相続に関するすべての問題が自動的に消えるわけではありません。
相続放棄後も問題になりやすいのは、
- 不動産の管理
- 相続財産の現実的な扱い
- 他の相続人や親族との関係
といった、法律と現実の間に生じる相続問題です。
相続放棄後も注意が必要な相続トラブル
相続放棄をしても不動産の管理責任が残る相続
空き家相続と相続放棄の関係
相続財産に不動産が含まれている場合、特に注意が必要です。
例えば、
- 被相続人が住んでいた家にそのまま住み続けている
- 相続放棄後も鍵を管理している
- 定期的に換気や清掃をしている
このような場合、**相続放棄をしていても「現に管理している人」**と判断される可能性があります。
その結果、
- 建物の倒壊
- 火災
- 近隣への被害
などが発生した場合、
相続人ではなくても責任を問われるリスクがあるのです。
相続放棄後に債権者や役所から連絡が来る理由
相続放棄をしたにもかかわらず、
- 金融機関
- 消費者金融
- 市区町村(固定資産税など)
から連絡が来て、不安になる方も多くいます。
これは、
- 相続放棄の情報がまだ共有されていない
- 次順位の相続人が確定していない
といった、相続手続き上のタイムラグによるものです。
このとき、安易に支払いをしたり、交渉に応じたりすることは非常に危険です。
場合によっては、相続を承認したと判断されるおそれがあります。
相続放棄が次の相続人に与える影響
相続放棄は「自分だけの問題」ではない相続
相続放棄をすると、その順位の相続人が全員いなくなり、
相続権は次の順位の相続人に移ります。
例えば、
- 子が全員相続放棄
- 親もすでに死亡
- 兄弟姉妹が相続人になる
というケースも少なくありません。
相続放棄が親族間トラブルに発展する相続
事前に何の説明もなく相続放棄をすると、
- 突然、兄弟姉妹に借金の請求が届く
- 親族から責任を押し付けられたと感じられる
など、相続をきっかけに人間関係が悪化する原因になります。
相続放棄は法的には個人の自由ですが、
現実の相続では「感情の問題」も無視できません。
相続放棄の期限と「うっかり相続承認」
相続放棄には厳格な期限がある
相続放棄は、
相続の開始を知った日から3か月以内
という期限が定められています。
この期間内に、
- 相続財産を処分する
- 借金の一部を支払う
- 相続人として明確に行動する
と、相続を承認したとみなされる可能性があります。
「何もしない」が最悪の相続対策になることも
「忙しくて何もできなかった」
「よく分からないから放置していた」
こうした理由で3か月を経過し、
相続放棄ができなくなるケースは非常に多いのが実情です。
司法書士が考える相続放棄の正しい向き合い方
相続放棄は相続全体を見た判断が重要
相続放棄は、
- 借金の有無
- 不動産の状態
- 親族関係
- 将来の相続トラブル
これらを総合的に考えて判断すべき相続手続きです。
「とりあえず相続放棄をすれば安心」という考え方は、
かえって相続問題を複雑化させる原因になることがあります。
まとめ|相続放棄=何も関係なくなる、ではない
相続放棄は、相続における有効な選択肢の一つです。
しかし、
- 管理責任の問題
- 次順位の相続への影響
- 相続人間・親族間の関係
といった点から、
相続放棄をしても相続と完全に無関係になるわけではありません。
相続や相続放棄で後悔しないためには、
- 早い段階で相続財産を把握する
- 期限を意識する
- 相続に強い司法書士へ相談する
ことが重要です。
相続放棄や相続手続きでお悩みの方は、
相続を専門とする司法書士事務所まで、お気軽にご相談ください。
<執筆者>
司法書士 齊藤 尚行
事務所:埼玉県さいたま市岩槻区東町二丁目8番2号KUハイツ1階