遺言

遺言能力とは?有効な遺言書に必要な判断力について解説

遺言能力とは何か?

遺言書を作成する際、最も基本的で重要な前提となるのが「遺言能力」です。どれだけ形式的に整った遺言書であっても、遺言者に遺言能力がなかった場合、その遺言は無効となる可能性があります。

では、「遺言能力」とは一体何なのでしょうか?ここでは、法律上の定義をわかりやすく解説します。

遺言能力とは?

遺言能力とは、「法律上有効な遺言をすることができるだけの精神的な判断能力」のことを指します。具体的には、遺言をする時点で、本人に「自分の意思で、何を書いているかを理解し、判断できる能力があるかどうか」が問われます。

判断能力と遺言能力の違い

ここで注意したいのが、「判断能力」と「遺言能力」は必ずしも同じではないという点です。

たとえば、認知症の高齢者や、精神的な障害を抱える方であっても、「遺言を作成する時点で、一時的に判断能力が回復していた」場合には、遺言能力が認められることがあります。

これは、以下のような考え方に基づいています:

  • 成年後見人がついていても、必ずしも遺言能力が否定されるわけではない
  • 遺言書を作成したときの「意思能力」があるかどうかが重視される

つまり、「日常生活では判断に不安がある方でも、遺言を作成する瞬間に内容を理解していたことが証明できれば、遺言は有効」となるのです。

遺言能力がないとどうなる?無効となるリスク

もし、遺言を作成した時点で本人に遺言能力がなかったと判断されれば、その遺言書は無効となってしまいます。

遺言書が無効になると、次のような問題が起こる可能性があります。

  • 法定相続が適用され、遺言内容が反映されない
  • 相続人同士でのトラブル・裁判に発展
  • 想定していた相続対策がすべて無意味になる

このようなトラブルを防ぐためにも、遺言能力が重要であることを理解し、遺言作成時に専門家のサポートを受けることが大切です。

何歳から遺言書を書ける?年齢制限と例外について

ここからは、遺言能力のもうひとつの重要な要素である「年齢制限」について詳しく見ていきましょう。

「自分の死後のことを考えるのはもっと年をとってからでいい」と思われがちですが、実は15歳以上であれば、遺言書を作成できることをご存じでしょうか?

この章では、民法の規定に基づいた遺言作成可能な年齢、未成年者の扱い、そして実務上の注意点についてわかりやすく解説します。

遺言書を作成できる年齢は「満15歳以上」

遺言をすることができる年齢については、民法第961条に明確な規定があります。

民法第961条(遺言能力)
満十五歳に達した者は、遺言をすることができる。」

つまり、満15歳になっていれば、未成年であっても遺言書を作成することが可能です。これは、他の法律行為(たとえば契約や不動産の売買など)と比較すると、かなり早い段階から可能とされているのが特徴です。

なぜ15歳から認められているのか?

遺言は「本人の最終的な意思を尊重する」制度であり、死後の意思表示を実現するための特別な法律行為です。そのため、民法では15歳という比較的若い年齢から、遺言を認めています。

親の同意は必要?未成年者の遺言について

15歳以上であっても未成年者の場合、「親の同意が必要なのでは?」と思う方も多いかもしれません。

しかし、結論から言うと――
遺言に親の同意は一切必要ありません。

未成年者であっても、遺言は本人の単独行為として認められており、親権者や後見人の承諾は不要です。

これは、遺言が他人との契約とは異なり、「自分の財産をどう処分するかを、自分だけで決める行為」だからです。

成年被後見人や未成年後見人の場合はどうなる?

一方で、年齢以外にも「後見制度」が関係してくるケースがあります。

成年被後見人の場合

  • 成年被後見人(判断能力が著しく不十分とされている人)は、原則として遺言ができません。
  • ただし、一時的に判断能力が回復している状態であれば、有効な遺言ができる場合もあります
  • その場合は、医師の診断書や、公正証書遺言での作成が強く推奨されます。

未成年後見人がついている場合

  • 15歳以上で、家庭裁判所により未成年後見人がついている未成年者も、本人に意思能力があれば遺言可能です。
  • この場合も、親権者や未成年後見人の同意は不要です。

認知症や精神障害がある場合の遺言能力の判断基準とは?

遺言能力について考える際、避けて通れないのが認知症や精神疾患を抱えた方が遺言をする場合の判断です。

高齢化が進む現代では、遺言書の作成時に本人が認知症を患っていたり、精神疾患の診断を受けていたりするケースが増えており、「本当に有効な遺言なのか?」という争いが起こりやすくなっています。

では、認知症の方や精神障害を持つ方の遺言は無効になってしまうのでしょうか?
実は、必ずしもそうではありません。ここでは、その判断基準と実務上の対処法を詳しく解説します。

判断能力がすべてのカギ:遺言時に意思能力があれば有効

遺言書が有効かどうかの判断で最も重視されるのは、「遺言書を作成したその時点で、本人に十分な判断能力があったかどうか(意思能力)」です。

これは、たとえ認知症や精神障害があったとしても、遺言の内容を理解し、自分の意思で決定できる状態であれば、法的に有効な遺言として認められるということを意味します。

医師の診断書は重要な証拠になる

判断能力の有無は目に見えにくいため、後日、相続人同士の争いに発展するリスクを軽減するには、「第三者の証明」が非常に重要です。

医師による意思能力の確認書・診断書の取得

  • 遺言書作成日と同日に、主治医などの医師による「意思能力確認書」を取得すると安心です。
  • 特に、認知症の診断を受けている方の場合は、その日どれだけ意思が明確だったかを医師に証明してもらうことが重要です。

公正証書遺言なら安心感が高い

判断能力に不安がある場合、遺言の方式として「公正証書遺言」を選択することが強く推奨されます。

公証人が本人の意思を確認するプロセス

  • 公証役場または病院・自宅などで、公証人が直接面談し、本人の意思能力を確認します。
  • 不安がある場合は、医師の診断書を持参することで、公証人の判断にも良い影響を与えます。
  • さらに、録音や録画によって遺言作成時の様子を記録しておけば、争いになった際の証拠として極めて有効です。

成年後見制度と遺言能力の関係

認知症や精神障害が進行すると、家庭裁判所によって成年後見制度が開始される場合があります。

成年被後見人でも遺言ができる場合がある

  • 原則として、成年被後見人には遺言能力がないとされています(民法第963条)。
  • ただし、先述のように「一時的に判断能力が回復していた」ことを証明できれば、有効な遺言となる可能性があります。

一時的回復による遺言の有効化には条件がある

  • 医師2名の立ち会いのもとで、意思能力があったことを証明しながら遺言書を作成することが民法で求められています。
  • このようなケースでは、司法書士や弁護士、公証人などの関与が不可欠です。

<執筆者>
司法書士 齊藤 尚行
事務所:埼玉県さいたま市岩槻区東町二丁目8番2号KUハイツ1階