相続が発生した際、「借金があるかもしれない」「相続手続きに関わる余裕がない」「被相続人と疎遠だった」などの理由から、相続放棄を検討される方は少なくありません。
相続放棄は相続に関する有効な制度ですが、正しい知識を持たずに選択すると、取り返しのつかない結果になることもあります。
相続は一生のうちに何度も経験するものではなく、精神的な負担も大きいため、冷静な判断が難しい場面でもあります。
だからこそ、感情だけで相続放棄を決めるのではなく、制度の仕組みと相続全体への影響を理解することが重要です。
本記事では、相続放棄を決断する前に必ず確認すべき相続のポイントを、司法書士の立場から分かりやすく解説します。
相続放棄とは何かを正しく理解する
相続放棄とは、被相続人(亡くなった方)の相続財産を一切引き継がない旨を、家庭裁判所に申述する相続手続きです。
相続放棄をすると、プラスの相続財産だけでなく、借金や未払い金などのマイナスの相続財産も含めて、すべての相続を拒否することになります。
相続放棄をするとどうなるのか
相続放棄が受理されると、法律上は「初めから相続人ではなかった」とみなされます。
そのため、不動産や預貯金といった相続財産を取得できないだけでなく、遺産分割協議や名義変更など、相続に関する意思決定にも一切関与できなくなります。
また、相続放棄により相続順位が繰り上がり、他の相続人に相続の負担や手続きが移る点も理解しておく必要があります。
相続放棄の前に相続財産の内容を把握できているか
相続放棄を検討するうえで最も重要なのが、相続財産の全体像をできる限り把握することです。
相続財産の調査を十分に行わないまま相続放棄をしてしまい、後から「知らなかった相続財産があった」と後悔するケースもあります。
プラスの相続財産の確認
相続財産には、
・預貯金
・土地や建物などの不動産
・株式や投資信託
・自動車や貴金属などの動産
などが含まれます。
相続放棄をすると、これらの相続財産を一切取得できなくなるため、相続放棄が本当に合理的な選択かどうかを金額面からも慎重に検討する必要があります。
マイナスの相続財産の確認
一方、相続には金融機関からの借入、保証債務、未払いの税金や医療費なども含まれます。
相続では、被相続人が生前にどのような契約をしていたかが分からず、相続開始後に初めて債務が判明するケースも少なくありません。
相続放棄には期限がある
相続放棄の申述は、相続の開始を知った日から3か月以内に家庭裁判所へ行う必要があります。
この期間は「熟慮期間」と呼ばれ、相続財産の調査と相続方法の判断を行うための重要な時間です。
期限を過ぎた場合のリスク
熟慮期間内に相続放棄をしなかった場合、原則として単純承認となり、すべての相続財産と債務を引き継ぐことになります。
相続放棄を検討している場合、期限管理を誤ることは重大な相続リスクにつながります。
相続放棄前後に注意すべき行為
相続放棄を考えている間でも、相続財産の取り扱いには細心の注意が必要です。
相続財産を処分していないか
相続財産を売却したり、預貯金を引き出したりすると、相続を承認したとみなされる可能性があります。
善意で行った行為であっても、相続放棄が認められなくなるおそれがあるため、相続財産の管理方法には注意が必要です。
相続放棄以外の相続方法も検討する
相続における選択肢は、相続放棄だけではありません。
相続財産の範囲内でのみ債務を負担する「限定承認」という相続方法もあります。
ただし、限定承認は相続人全員で行う必要があり、手続きも複雑で、実務上は専門家の関与が不可欠となるケースがほとんどです。
相続放棄が家族に与える影響を考える
相続放棄をすると、次順位の相続人に相続権が移ります。
その結果、兄弟姉妹や甥姪など、想定していなかった親族が相続手続きや債務対応を迫られることもあります。
相続は個人の問題であると同時に、家族全体の相続問題であることを意識することが大切です。
相続放棄を検討したら司法書士に相談を
相続放棄は、期限管理、書類作成、家庭裁判所への申述など、専門性の高い相続手続きです。
司法書士に相談することで、相続財産の整理から相続方法の選択まで、状況に応じた適切なアドバイスを受けることができます。
まとめ|相続放棄は「調査・期限・影響」を踏まえて慎重に
相続放棄は相続トラブルを回避する有効な方法ですが、一度の判断が将来に大きな影響を与える相続手続きでもあります。
相続財産の内容、熟慮期間、家族への影響を十分に検討したうえで、後悔のない相続判断を行いましょう。
相続や相続放棄でお悩みの方は、早めに司法書士へご相談ください。
当事務所では、相続に関するご相談から相続放棄手続きまで、安心してお任せいただける体制を整えております。
初期の段階でご相談いただくことで、相続放棄を含めた最適な相続方針を立てやすくなり、不要な相続トラブルの予防にもつながります。
<執筆者>
司法書士 齊藤 尚行
事務所:埼玉県さいたま市岩槻区東町二丁目8番2号KUハイツ1階